あの日溺れた海は、

「そうして単純なわたしは小説家を目指そうと思ったんです」
 
 
 
 気がつけば車はわたしの家の前で停車していた。夢中で話しているうちに家に着いたらしい。
 
 
「す、すみません。なんか急に語ってしまって…」
 
 
「ん?いいえ。あ、だからあの合宿の時…。」
 
 
 ハッと思い出したようにそう言う先生にわたしははい、と答えて続けた。
 

「たまに波の音とか海の匂いとかで思い出してパニックになってしまうんです。だからあの時先生が声をかけてくれて本当に、助かりました。」
 
 
「ああ。」
 
 
「だからその感謝の意も込めてペンギンをあげたんです。結局あの日は勇気が出なくて言うことができなかったけど。
 
先生、迷惑だったかなって思ったけどつけてくれていて嬉しいです。」
 
 
そう言いながらウィンカーレバーにぶら下がるペンギンのキーホルダーを指差すと、先生はハハ、と笑った。
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