あの日溺れた海は、

「先生も、小説家を…?」


「あれ、言ってなかったでしたっけ?」


恐る恐る聞く私に対して先生はいけしゃあしゃあと言ってのけた。


「…少し、家庭の事情で。諦めざるを得なかった。ただそれだけですよ。」

  
 家庭の事情がどんなものなのかわからないけど、ひどく傷ついたような顔をした先生にギュッと心が押しつぶされた。


泣く泣く夢を諦めた先生に、運良く恵まれた環境に生まれたわたしを見てどんな気持ちだったのだろう。


もしかしたら知らないうちに傷つけてしまっていたのかも。
 

 そんな自分が今何を言うべきか分からずに押し黙ってるとそのかわりにポロリと涙が出てきた。
 
 
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