あの日溺れた海は、

「先生のつらいことは、わたしが半分背負います。先生がわたしが抱える荷物を下ろしてくれたみたいに…。だから…。」
 

そんな泣き出しそうな顔をしないで、そう言う前に先生は「ありがとう。」とぎこちなく笑った。


今まで見た笑顔の中で一番寂しげだった。
 

「さ、もう遅いから鍵閉めましょうか。」
 

わたしが何か言いたげにしているのを半ば強制的に打ち消して先生は勢いよく立ち上がるといつもと同じ飄々とした顔でそう淡々と言った。

まるで今まで何もなかったように言うもんだから、呆気にとられた。
 
先生、そうやって自分の傷を隠すように仮面をしていたんですね。
 
 
誰にも触れられないように、絆創膏を幾重にもして。
 

そんな場所にわたしは触れられた、のに。
 

あんな痛々しい笑顔を見た瞬間に先生がもっと遠く感じた。
 

先生、わたしは先生のことを好きでいてもいいのでしょうか。
 

わたしは先生がどんなものを抱えていても好きでいる覚悟はできているけれど、
 

先生はどう思うのでしょうか。
 

なんで遠く感じたのでしょうか。
 

幸せな1日のはずなのに、なぜ悲しい涙が止まらないのでしょうか。
 
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