エリート弁護士との艶めく一夜に愛の結晶を宿しました
「日奈乃への気持ちを自覚したのは、留学して一時帰国したときなんだ」

「……あのとき?」

 意外な事実に私は聞き返した。たしかにうちで少しだけ会ったけれど本当に短い時間だったし、両親も一緒だったのに……。

「俺の進路を知った人たちからは、父親が弁護士だから俺が弁護士を目指すのも当然だって話す人が多かった。俺もあえて否定はしなかったけれど、どこか釈然としなくて。そんな中、日奈乃だけは、はっきりとどうして弁護士になりたいのかって聞いてくれただろ?」

 私の部屋で照れくささを抱えながら彼と話した内容を思い出す。

『稀一くんはどうして弁護士になろうと思ったの?』

『父親の影響だよ』

 その答えは間違っていないだろうけれど、もっと稀一くん自身の気持ちが知りたくて私は生意気に食い下がった。

『でも、稀一くん自身が弁護士を目座す気持ちがあるからでしょ?』

「今も昔も変わらず、いつだって俺自身をしっかり見て、向き合ってくれるのは日奈乃だけなんだって気づいたんだ」

 何度も瞬きをして堪えていた涙が、目尻から再び滑り落ちた。

 頬に唇を寄せられ、涙の跡を軽く舌で舐め取られる。驚きでとっさに後ずさりしようとしたら逆に腰に腕を回され抱き寄せられた。

「ずっと不安にさせて、悪かった。お互いに想い合っていたのに言葉が足りなかったな」

「ほ、本当だよ。私は好きって伝えたのに」

「ん。だから初めて日奈乃の気持ちを聞いたとき自分を抑えられなかったんだ」

 不意に彼に初めて抱かれた日を思い出す。それまで一切手を出されなかったのに、なにがきっかけだったのか不思議に思いつつ深くは突き詰めなかった。
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