強情♀と仮面♂の曖昧な関係
「オイ、しっかりしろ」
次に聞こえてきたのは、翼の声だった。

ここは・・・病院。
私は・・・倒れたんだ。
赤ちゃんは?

「紅羽、大丈夫か?」
父さんまで来ている。

「大丈夫」
みんなが見ているからと、起き上がろうとして、
「馬鹿、寝てろ」
翼に止められてしまった。

「今は、じっとしていなさい」
父さんまで。

ウンウンと頷く翼。

もー。
父さんと翼は以前から何度か顔を合わせている。
もちろん友達としてで、まさか一緒に暮らしているとは思っていないけれど。

「心配いらないからな。落ち着くまで、もう少し寝ていろ」
「うん」
翼は優しく言ってくれるけれど、私にはわかっている。

自分の体だもの。わからないはずがない。
今も・・・出血が続いている。

「検査だな」
救命部長の声。

「俺が診ますから」
いつになく、翼の語気が強い。

部長を含め反対する者はなく、みんな遠巻きに見ている。

「とりあえず、師長、救急病棟の部屋を用意してください」
「個室でいいですよね」
「ええ、かまいません」
なぜか翼が答えている。

差額ベット代を払うのは私ですが・・・

「検査は血液検査と、超音波は病室に上がってからにします」
「レントゲンは?」
師長の問いに、
「うーん、後でいいです。とにかく、病室に上げてやりましょう」
「「はい」」
翼が言い切り、救命部長も了承した。

本来なら、この状況ではレントゲンが必須だと思う。
でも、妊娠初期の私にレントゲンはできない。
翼はわかっていて断ってくれたんだ。
もしかしたら、部長も師長も気づいたかも知れないけれど、結局みんな黙ってくれた。


< 95 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop