強情♀と仮面♂の曖昧な関係
救急病棟の特別室。
ここって、確か1日数万円はする部屋のはず。

朝方まで付き添っていた父さんが帰り、翼と2人になった。

「救命部長、きっと気づいたね」
「ああ。俺の彼女だと思われているから」
「ふーん。否定しとかないと」
「別にいいよ」
「言いわけないじゃない」
このままじゃ、翼の子供だと思われるかも知れない。

「せっかくだから、このまま紅羽をもらおうかな。今なら子供までついてくる」
「おまけみたいに言わないで」
「本気だぞ」
真面目な顔。

余計にまずいわよ。
これ以上翼に迷惑はかけられないのに。

日勤帯になり、顔見知りのドクターや看護師が顔を出してくれる。
もちろんうれしくはあるんだけれど・・・
今は素直に喜べない。
みんなが気遣ってくれてはいるけれど、私の状況は変わらない。
少しずつではあっても、止まらない出血。
それは赤ちゃんからの危険信号だから。

普段、私は神も仏も信じないけれど、今度ばかりは神仏に手を合わせた。
どうかこの命を守ってください。たとえ私の命が縮んでもいいからこの子を助けてください。

「紅羽、しっかりしろ」
いつの間にか涙を流していた私の肩を、翼がギュッと抱いてくれた。

とっても、あったかい。
でも違う。
これは、私が欲しい温もりではない。
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