S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

悪態をついたそのすぐ後に素直にお礼を言われてくすぐったい。普段からかわれてばかりだから、たったひと言の優しい言葉がものすごく身に染みてしまう。


「さんざんお世話になってるんだもん。朋くんのお役に立てるのなら」


サインするのに手が震えるほど朋久が好きなくせに、それを隠すために彼が恩人だからだと理由づけて逃げた。自分の心の面倒くささに呆れる。

役所に届け出るのは教授の署名をもらい、朋久の両親に報告してからとなった。


「バレンタインのクッキーもサンキュ。大切に食べるよ」
「うん」


まだクッキーの残ったケースと婚姻届を大切に抱え、朋久は自室に向かった。
リビングのソファには溢れるほどチョコレートが入った紙袋があり、あれはどうするのかなと考えながら、菜乃花は婚姻届にサインをしたふわふわとした余韻にまだ浸っていた。

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