S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

所内では旧姓のまま働いている女性が比較的多い。
菜乃花の場合も同じ所内にいる弁護士が夫であるため、そうさせてもらうことにしていた。


「新婚生活はどう?」


それは最も返答に困る質問だ。


「特別どうこうっていうのはないけど……」
「ま、これまでも一緒に暮らしてたんだもんね。変わらないといったらそうか。でも、あの京極先生が夫なんだよ? 同居人と夫とではすごい違いだよね」


言葉にするとまったく違うが、悲しいくらいに中身は以前と変わらぬままだ。
夢に見た妻のポジションに浮かれていたのは最初だけ。わかっていたとはいえ、拍子抜けするほど変化がない。
これぞ偽装夫婦というのを実感しはじめているところである。


「里恵たちは結婚しようとかいう話は出たりする?」


あまり詮索されるとつらくなるため、里恵たちの話にすり替えた。
< 140 / 300 >

この作品をシェア

pagetop