S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
エレベーターに乗り二十九階を目指す。
預かった資料に目を落としたら、四月から受け入れる新入所員たちの教育プログラムのスケジュールだった。
菜乃花がこれまでのものをベースに作成し、マネジャーの高坂に確認をお願いしていたもの。武本には講師として登壇してもらう予定になっているため、完成したスケジュールを渡す必要がある。
高坂に『必ず手渡しで』と念を押されたのは、忙しい弁護士だからこそ社内メールで送って見落としがあってはいけないため。確実に予定を押さえておく必要がある。
研修はすでに弁護士資格を持っている者、それを目指す者、菜乃花のような一般事務といった系統ごとにそれぞれ違うプログラムを設けている。
最初の三日間だけは全員一緒に講習を受けるため、目指す道の違う同期と仲良くなったのはそのときだった。
エレベーターを降りたフロアの静かな空気に背筋が伸びる思いがする。菜乃花たちがいる雑然としたフロアとは明らかに違い、温度まで数度低いような感じだ。
武本の部屋まで足を進めていると、さらにその先の部屋のドアが開き、朋久が出てきた。
自宅にいるときと違い、上質な仕立ての三つ揃いスーツを着た彼は眩しいくらいにカッコいい。ダークグレーの無地のスーツに薄いブルーのワイシャツを合わせ、とても爽やかだ。