S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う

朋久にチラッと目線を投げかけ、またすぐ前に戻す。


『そっか。なぁ、今度食事でもしない?』
「食事? おじさんやおばさんも一緒に?」
『違うよ。俺と菜乃花のふたりで』
「ふたりで? どうして?」


唐突なお誘いに困惑する。充とは親戚だが、いつもどちらかの親が一緒でふたりきりで会ったことはない。


『どうしてって、久しぶりに菜乃花に会って懐かしくてさ。積もる話もあるしどう?』


なんとなく躊躇うのは、朋久以外の男性とふたりで会うのは気が進まないためだ。
朋久一筋の菜乃花はデートの経験すら一度もなく、誘われてものらりくらりとかわしてきた。ふたりで会っても、きっと朋久と比べてしまうから相手に失礼だ。


『菜乃花? 聞いてる?』
「あ、うん、ごめ――」
「菜乃、もう着くぞ」


菜乃花が言いかけるのとほぼ同時に、朋久が口を挟む。それも隣でしゃべっているトーンではなく、かなり大きな声だ。まるで自分の存在を相手に知らしめるような。
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