みうとうみ ~運命の出会いは突然に~
プロローグ
「ほら、これ使えよ」
その声に導かれて見上げた視線の先には、屈託のない笑顔。
唐突に現れた、明るい栗色の髪をした青年は、わたしに折りたたみの黒い傘を手渡すと、豪雨のなかに駆けだしていった。
町中残らず水没させそうな、暴力的な勢いの雨のなかに。
綺麗な栗色の髪が濡れるのも構わずに。
ダンスのステップでも踏むように軽やかに。
車のライトに照らされた後ろ姿を目で追っていたときには、わたしはもう魅せられていたんだろう。
名前も素性もまったく知らない、その彼(ひと)に。
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