激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす

だから気持ちを打ち明けられずにここまできてしまった。

しかし結婚してからの颯真は少しずつ千花を受け入れようと努力してくれていた。呼び方、接し方を変えたのも、身体を重ねるのも、甘い態度で翻弄してくるのさえ、夫として向き合おうとしてくれた颯真の優しさだと思う。

それに加え、この前の夜の態度。千花の同僚に夫として挨拶し、仕事以外では指輪を外さないよう忠告し、独占欲や嫉妬心を感じさせる言葉を囁きながらいつも以上に情熱的に抱く姿。

(あんなの、期待するなって言う方が無理……)

もしかしたら、本当の意味で夫婦になれるかもしれない。あの日の夜を思い出し、12月の寒空だというのに身体が火照る。

ぶんぶんと首を振り、甘く濃密な雑念を頭の中から追い出すと、千花は『bonappetit』でクリスマス用に小さな4号のザッハトルテの予約を済ませた。

最後まで定番のブッシュドノエルと迷いつつザッハトルテにしたのは、ウィーンでの新婚旅行を思い出したからだった。

(1番好きなケーキを食べて勢いをつけて告白しちゃおう…!)

そして大切な思い出のあるチョコレートフィナンシェを自分用に購入し、千花は店を後にした。


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