激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす

颯真も弥生や千花が幼少期からどれだけ両親からプレッシャーを掛けられて過ごしてきたのかを知っているがゆえに、彼女が愛する恋人と逃げ出してしまいたくなった気持ちがわからないではない。

それでも当時の千花のことを思えば、あっさりそうだったのかと納得するわけにはいかなかった。

「颯真は?あれから…大変だった、よね…?」

弥生が颯真の左手を見る。そこには既婚の証である指輪があり、さらに罪悪感が募ったのだろう。

「…弥生がいなくなった年の夏には、俺と千花の婚約が決まった」
「……え、千花…っ?!」

弥生は切れ長の大きな瞳を見開き、颯真を凝視する。『嘘だと言って』とその瞳が語っていたが、真実なのだから仕方ない。

「森野のご両親は、弥生の代わりに千花に俺との婚約を迫った」
「そんな…。私がいなくなることでうちとの婚約話はなくなるものだとばかり……」

妹の千花を殊更大切に思っていた弥生がみるみるうちに冷静さを失っていくのがわかったものの、颯真は言わずにはいられなかった。

「高校3年生の女の子が急に姉を失い、進路も変更させられ、顔見知りなだけの5つも年上の男といきなり婚約させられたんだ。千花が、一体どんな思いだったか分かってるのか」
「だって、まさかそんなことになってるなんて…。千花には何て謝ったらいいか…っ」

快活で明るい弥生が泣くところなど、颯真は見たことがない。
ぽろぽろと涙を流す弥生を見て、彼女だけを責めるのはお門違いだと我に返った。

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