激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす

ずっと森野家という鳥かごの中にいた自分も、こうして自分で考え異国の地にひとりで立っている。両親に強制されたものではあるが、大学で取得した資格を頼りに就職し、少ないながら報酬を得ている。

颯真と離婚することを考えれば、まだ胸が張り裂けそうなほど痛むし、油断すればすぐに涙も溢れてきそうになる。

それでも1人でなんとかやっていけそうだという自信が持てていることは、千花にとって誇るべきことだと思った。

(私も、少しは自立出来たのかな……)

ホテルで一晩ゆっくり過ごした千花はかんたんに身支度を整えると、颯真と歩いたことのあるウィーンの街をブラブラと散策する。

ひときわ行列が出来ているのは、颯真と一緒に入ったことのあるイタリア風の外観のカフェだった。

(初めての間接キスにさえドキドキしたっけ…)

大好きなザッハトルテの味よりも、流暢なドイツ語で注文したり、店内の女性の視線を一人占めしてしまった颯真のコーヒーを飲む姿が思い出される。

あの時はこんな日が来るだなんて思いもしなかった。
さすがにカフェに入ることは出来ず、千花は足を進めて目当ての建物を目指した。


< 140 / 162 >

この作品をシェア

pagetop