激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす


「…ウィーンに来たって感じがする」

ホーフブルク宮に着くと、いつかと同じことをひとり小さく呟きながらチケットを購入し王宮内に入る。
膨大な食器類の展示をさらりと見て、お目当てのシシィ博物館に足を踏み入れた。荘厳な様子に気圧されながら、日本語の音声ガイドを頼りに見学していく。

以前ここに来てからというもの、エリザベート皇后の生涯に興味を持ち、独学ではあるものの彼女について色んな知識を得た千花は興味深く館内を見て回った。

特に彼女の晩年、夫とすれ違い、息子も喪ったエリザベートが多くの時間を費やした旅行で使用されたお召し列車の内部も再現されていて、1人の女性が生きた証がまざまざと見えてくる。

展示が進むと、姉のヘレネがお妃候補だったもののフランツの一目惚れでエリザベートの運命が変わってしまった事が音声ガイドから詳しく流れてきた。

以前来た時は、本来姉の婚約者であった男性と結婚するに至ったという共通点を見出し、親近感を抱いた。

しかしよくよく考えれば、エリザベートと自分の結婚には皇族と一般人ということ以外に大きな相違がある。

(シシィは、彼に望まれて結婚したんだもんね…)

姉とのお見合いの席で一目惚れされて皇妃になったエリザベートと、姉がいなくなったことで身代わりとして差し出された自分。

今まで勝手に親近感を持っていたのが嘘のように、正反対の結婚に思えてくる。

< 141 / 162 >

この作品をシェア

pagetop