激情に目覚めた御曹司は、政略花嫁を息もつけぬほどの愛で満たす

「そ、颯くん…?!」
「迎えに来た。一緒に帰ろう」

驚いて口元に添えられた千花の左手の薬指に目が行く。いつもあるはずのものがない。

(なんで指輪を外してる…?)

颯真はジリジリと胸が焦げ付きそうになるのを持ち前の理性でなんとか抑え込み、突然登場した自分を訝しげに見ている男性2人に視線を向けた。

「はじめまして、月城です。いつも妻がお世話になっています」

声を掛ける直前の彼らの会話を聞けば、少なくとも山崎と呼ばれた男性は千花が既婚者であることを知らないであろうことが察せられる。

職場で結婚していることを隠していた事情はわからない。大人げないと自覚しつつ牽制の意味を込めて挨拶をすると、真っ先に正気に返ったのは千花の友人だった。

「こんばんは、霧崎です。千花とは学生時代からの付き合いで」
「ええ。お話はよく千花から聞いています」
「……、妻?」
「え、月城さん結婚してたの?」

無表情だが呆然とした様子の矢上と、目を見開き驚きを隠さない素直な山崎の反応は対称的で、前者の男に若干の失望が見て取れた。

その様子に、颯真はやはりと心の内で舌打ちをする。彼のこめかみがピクリと動いたのを、陽菜は見逃さなかった。

「千花、お迎えがきたならここで解散にしよう。また月曜日にね」
「あ、う、うん。ごめんね、ありがとう。山崎先生と矢上さんもすみません。今日はこれで…」

千花が同僚に挨拶をするのを見届けながら、颯真は宮城が手配したであろうタクシーがこちらに向かってくるのを待ち構えた。



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