タツナミソウ
少し小走りをして、すぐ先の下駄箱まで向かった。もう翔平の大きい真っ白な靴が入っているのが見えたからだ。
急いで会社を出て、翔平の家の近くの駅に向かった。出入り口の柱に右の肩をつけてよしかかって携帯を見ている翔平を見つけた。

「ごめん。待たせしちゃったね。」

後ろ姿にそう話しかけても返事がない。
慣れない仕事で疲れているのだろうか。それとも、私の着替えが遅くて少し怒っているのだろうか。名前を呼べば気づいてくれるかもしれないけどできなかった。不安になりながら、横にまわりこんで翔平の肩を軽く2回叩き、顔を覗き込んだ。

「あ、、。じゃあ、行こうか。」

先に歩き出した翔平は左耳を触りながら、自分の家の方を向いて言った。

駅から翔平の家まで650mほど。
私たちは無言のまま歩いた。翔平のペースに合わせて。太陽の最後の光に照らされる翔平のピアスが眩しくて、少し後ろを歩いた。
5分で家に着いた。背中合わせになっていた翔平の靴を揃えて、「お邪魔します」と小さな声で言い、ローテーブルの前に座った。
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