タツナミソウ

8

「お邪魔します〜」

翔平の家に来るのはこれで3回目だ。でも今日が1番緊張するし、ワクワクするし、ドキドキする。早く亮太に会いたい気持ちを、隠さなければならないと思って、とにかく部屋をウロチョロした。流石に落ち着きが無さすぎて気になったのか台所に立っている翔平君が、じーっと見つめてきて指をさした。

「それ、泊まり道具そんなあんの?」

「あ、これね色々持ってきちゃってさ、あ!あと、これ、この間借りたパーカー返すね。ありがとう」

私の荷物の多さに驚いていたらしい。たしかに結構重かった。これから毎週来るしなと思ったら、あれもこれもと沢山持ってきてしまった。ちょうど洗濯が終わったこの間借りたパーカーも返せてよかった。翔平君はパーカーを見つめてニコッと笑ってクローゼットに戻していた。そんなにお気に入りの服を貸してくれたのかな。嬉しさと早く返さなかった事への後悔が頭の中をごちゃごちゃした。だから、両手で頭をギューっと押し付けてくしゃくしゃにしてゴミ箱に捨てる。その時に気がついた、自分の手首についている持ってきた紙袋跡が痒くてポリポリしていた。大荷物でも持ってくれないのは翔平君らしくていいなと微笑ましくなった。決して荷物は男が全部持つものとかそういう風に思っている訳ではないんだけど、、、。これは私が翔平君といるという紛れもない事実を感じさてくれる物だからあったかい。

「何1人で笑ったり、焦ったりしてんの?」

「え、あー、あれだよ。そう、これ、、、」

考えている事を隠したくて部屋を見渡した。壁にかけてあるネックレスが目についた。はじめて会った時に翔平君がつけていた物だった。手に取り、よく確認して、あの時の疑問が確信へと変わった。

「やっぱり!これ亮太のやつだよね?」

翔平君は淹れたコーヒーをテーブルの上に置いて、あと数センチの距離に触れてきた。

「ああ。それ貰ったんだよ。亮太が死んだ後だから勝手にだけどな」

「そ、そうだったんだね。お気に入りだったもんね」

亮太が死んだ後という言葉に、心の穴が痛んだ。さっきまでのドキドキとかワクワクとかが消えてってぎゅーっと締め付けられた。翔平君は下を向いている私の手を取った。

「じゃあな。幸子さん。」

そう言って、私の薬指に翔平君の唇が降ってきた。

「久しぶり。チコ」

上を向いた彼は亮太になっている。見なくてもわかる。奥の歯を食いしばって、顔を上げた。彼の笑顔を見て私もつられて笑顔になった。亮太に会えてとても嬉しい。この気持ちは嘘じゃない。心の穴がまだ少し痛むのは、ドキドキしすぎてだろう。
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