王子達は公爵令嬢を甘く囲いたい
 
 よし、じゃあ今度は私が聞いてみよう!

 「ねぇ、マルスさん」

 「は、はい、なんですか?」

 「また料理長を怒らせる様なことをしたのです
 ね」

 疑問形じゃなくて、断定で言ってみる。
 するとマルスは 何故それをっ!、という感じの顔をした。

 あ、やっぱりそうなんだ。この短時間で何をしでかしたんだろう…。
 兄様も同じことを思ったのか、どこか呆れたような眼差しを向けた。

 私達のそんな視線に気づいたマルスは、慌てて代弁し始める。
 
 「ちょっ、ちょっと!御二人ともそんな眼差しで
 俺を見ないで!それに!今回はそこまでヒドくない
 から!…あ、ヒドくないですから!」
 
 余程慌ててたのか、敬語を忘れて思いっきり素で話してる。
 最後に気づいて取ってつけた様に敬語に直していたけど……
うん、マルス、もう手遅れだよ…

 というか、そこまでヒドくない、ねぇ…
 
 未だに喚いているマルスに気づかれないよう、こっそり兄様に話しかける。

 「兄様、兄様」

 「どうしたの?」

 「マルスさん、今回はそこまでヒドくない、って
 言ってましたけど…」

 「あぁ…そうだね…」

 兄様はちょっと遠い目をした。

 「それって、いつもはどんなことをしでかしてい
 るのでしょうか…」

 同じことを思っていたらしい兄様は更に遠い目をした。
 6歳児にこんな表情をさせる大人とは一体……。


 「…アンジュ」

 「はい?」

 「それについては、これ以上考えるのはよそう」

 「…確かに、それもそうですね…」
 
 

 ………………。


 「って、ちょっと聞いてます?!」


 私達が全く聞いてないことにやっっと気づいたマルスは、何故か若干キレている。

 おかしい……何故キレられなければならないんだ…。悪いのは何かしでかしたアッチなのに…

 
 「はぁぁ……マルス」

 「あぁぁもうなんですか?!」

 「いくらエルドラード公爵家が寛容だからといっ
 て、やりすぎはいけないよ。立場をわきまえろ。
  マルス、お前はなんだ?エルドラード公爵家の
 料理人見習いだ。そして僕達は?エルドラード公
 爵家の嫡男と令嬢だ」

 
 おおぉぉ~!
 レア!嫡男としての立場の兄様だ!
 いつもはほんわか雰囲気な兄様だけど、こういう時は公爵家嫡男らしく毅然たる態度でカッコいい。それはまさにギャップ萌えである。

 
 私が萌えてる間に、マルスは今までの自分の態度を思い出し、少し青ざめていた。

 「な、なんていうことを、俺は…っ。も、もうし
 わけありませんでしたっ!」

 「うん、いいよ。まぁ、僕達にはまだ別に大丈夫
 だけどさ、他の貴族相手にこんなことしたら大変
 なのはマルスなんだよ」

 だから気をつけてね、兄様はそう言って微笑んだ。

 その微笑みは天使のようだった、とだけ言っておこう。







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