恋の誘導尋問~恋に不器用な先輩に捕われたい~
***
澄司さんに紹介することを頼まれたので、仕事中の佐々木先輩を連れ出そうと、単身でフロアに顔を出したというのに――。
「笑美さん!」
フロアの扉を開けて数歩進んだ瞬間に、澄司さんは迷うことなく、私のあとを追いかけてきた。
(ううっ、澄司さんのせいで、あちこちからの視線を、めちゃくちゃ感じる。私に向けてじゃないけど、手に汗握る展開を、皆さんはきっと期待しているに違いない!)
「彼氏さんを見るついでに、ほかの従業員の方の仕事ぶりを、拝見してみたくなりました」
「えっ?」
「だって僕の取引先相手なんだし、見たってなにも問題ないですよね」
眩しさを感じさせる満面の笑みで言われた時点で、『仕事の邪魔になるのでご遠慮ください』の言葉を飲み込むしかなかった。
「あ……、はい」
引きつり笑いを浮かべながら返事をし、仕方なく歩き出したところで、血相を変えた佐々木先輩が目の前に現れた。
電話が鳴っているのに誰もとろうとせず、室内に虚しく響き渡る。皆さん一言も発することなく、固唾を呑んで私たちを見守っていた。
自社のイケメンエースVS四菱商事の御曹司という、稀に見る対決を逃すまいという気迫が周りから伝わってきて、澄司さんの前から思わず退いた。
「貴方が笑美さんの彼氏さんですか?」
「……はい、佐々木と申します」
佐々木先輩の肯定したセリフを聞いた瞬間に、顎に手を当てながら、少しだけまぶたを伏せて、気難しそうになにかを考える澄司さん。たったそれだけのポースをとっているだけなのに、紳士服モデルの写真を撮影しても、おかしくないくらいに決まっていた。
「確か佐々木さんは、我社とのプロジェクトに関係していませんか? 書類のどこかに、お名前があったと記憶しております」
「微力ながら、お手伝いさせていただいてます」
会話だけ聞くと、仕事中のやり取りのような感じなのに、漂っている雰囲気がそれとはまったく違った。
相手の隙を狙い澄ましているのか、お互い笑みを浮かべているのに、瞳がやけに真剣そのもので、間に入ったりしたら、ふたりのレーザービームで間違いなく消し炭にされるような気がした。
澄司さんに紹介することを頼まれたので、仕事中の佐々木先輩を連れ出そうと、単身でフロアに顔を出したというのに――。
「笑美さん!」
フロアの扉を開けて数歩進んだ瞬間に、澄司さんは迷うことなく、私のあとを追いかけてきた。
(ううっ、澄司さんのせいで、あちこちからの視線を、めちゃくちゃ感じる。私に向けてじゃないけど、手に汗握る展開を、皆さんはきっと期待しているに違いない!)
「彼氏さんを見るついでに、ほかの従業員の方の仕事ぶりを、拝見してみたくなりました」
「えっ?」
「だって僕の取引先相手なんだし、見たってなにも問題ないですよね」
眩しさを感じさせる満面の笑みで言われた時点で、『仕事の邪魔になるのでご遠慮ください』の言葉を飲み込むしかなかった。
「あ……、はい」
引きつり笑いを浮かべながら返事をし、仕方なく歩き出したところで、血相を変えた佐々木先輩が目の前に現れた。
電話が鳴っているのに誰もとろうとせず、室内に虚しく響き渡る。皆さん一言も発することなく、固唾を呑んで私たちを見守っていた。
自社のイケメンエースVS四菱商事の御曹司という、稀に見る対決を逃すまいという気迫が周りから伝わってきて、澄司さんの前から思わず退いた。
「貴方が笑美さんの彼氏さんですか?」
「……はい、佐々木と申します」
佐々木先輩の肯定したセリフを聞いた瞬間に、顎に手を当てながら、少しだけまぶたを伏せて、気難しそうになにかを考える澄司さん。たったそれだけのポースをとっているだけなのに、紳士服モデルの写真を撮影しても、おかしくないくらいに決まっていた。
「確か佐々木さんは、我社とのプロジェクトに関係していませんか? 書類のどこかに、お名前があったと記憶しております」
「微力ながら、お手伝いさせていただいてます」
会話だけ聞くと、仕事中のやり取りのような感じなのに、漂っている雰囲気がそれとはまったく違った。
相手の隙を狙い澄ましているのか、お互い笑みを浮かべているのに、瞳がやけに真剣そのもので、間に入ったりしたら、ふたりのレーザービームで間違いなく消し炭にされるような気がした。