恋の誘導尋問~恋に不器用な先輩に捕われたい~
(とりあえずみんなの視線から、目立ちまくるこのふたりを、早く消さなければ。あとからどんな噂話をされるか、わかったもんじゃないし)

「お話し中のところすみません。個人的に込みいった話があるので、移動をお願いします!」

 表面上、仲良さそうに微笑み合うふたりに、意を決して告げた。このときの私の顔が必死そのものだったと、斎藤ちゃんがあとから教えてくれたけれど、その気持ちは間違いないものだった。

「笑美さんのお願いを、きかないわけにはいきません。佐々木さん移動しましょうか」

 そう言って先に歩き出した澄司さんのあとをついて行こうとしたら、不意に右手を掴まれる。ちょっとだけ冷たいてのひらに掴まれたせいで、驚きながら振り返った。

「佐々木先輩?」

 手を掴んだ張本人をしっかり見上げて呼びかけたのに、佐々木先輩は私の視線を無視して、無表情のまま歩を進める。

 みんなに注目された状況下で、佐々木先輩に引っ張られて歩かされた私は、背後に気を遣って何度も頭を下げた。あちこちからなされるヒソヒソ話が耳に入ることが、本当に嫌でたまらない。

「仲がよろしいみたいですね」

 佐々木先輩と廊下に出たタイミングで、澄司さんはにこやかに話しかけてきた。背の高い彼が見下ろす先は、しっかり繋がれた私たちの手だった。

「やっ、あのこれは……」

 しどろもどろに答えると、佐々木先輩は私からやんわり手を放す。そして澄司さんにきちんと向かい合って、いつもより低い声で答えた。

「別に。付き合っていれば、普通だと思います」

「僕だけじゃなく職場の方々にも、しっかりアピールしたくなったんでしょう? これは俺の女だって」

「そんな、くだらない意図はありません。それでお話があるのは、綾瀬川さんですよね?」

 佐々木先輩は横目で私を一瞬見てから、ふたたび澄司さんを仰ぎ見る。

「くだらない意図なんていう言葉で、表現されるとは思いませんでした。そうか、佐々木さんにはハッキリ言っておいたほうがいいみたいですね」

「なんでしょうか?」

 ふたりの会話を遮ることなんてできなくて、テニスのプレイを観戦するギャラリーのように、視線を忙しく左右に動かす。

「僕、笑美さんがとても気に入りました。彼女とお付き合いしたいので、別れてもらえませんか?」

 微笑みを絶やさずに言い切ったセリフは、とても衝撃的なものなのに、お店屋さんで「これください」みたいな、軽い感じに聞こえてしまった。
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