恋の誘導尋問~恋に不器用な先輩に捕われたい~
 まくし立てる感じで一気に喋ったので、斎藤の息はいい感じに切れていた。息だけじゃなく頭もキレているように、佐々木の目に映る。

「斎藤にそこまで言われたら、ベッド以外でする気になれない」

「その発言、会社以外でもって考えていたんじゃーー」

 屋外じゃなきゃいいなと、疑いのまなこで目の前を見つめた斎藤に、佐々木は無言で首を横に振る以外の選択肢が残されていなかった。

「佐々木先輩、顔面偏差値最強男に勝つ自信ありますか?」

 斎藤からの口撃で、いい感じにメンタルが削れた佐々木は、『勝てる』という言葉を告げることができない。ポンコツという言葉と恋敵の難解さを克明に語られたせいで、自信がなくなっていた。

 だが『無理』や『負ける』なんてセリフを吐くことは、どうしても嫌だった。松尾を誰にも渡したくなかったから――。

 だんまりを決め込む佐々木に、斎藤は大きなため息をついてから語りかける。

「今日はフロアで、三人が顔を付き合わせたときに、佐々木先輩がまっつーの手を進んで握りしめて、俺たち無敵ですっていうのを、きちんとアピールできていたのに」

「それなんだが、そういった意味はあのときなかったんだ」

「それ以外の意味が思いつかないんですけど!」

「松尾が早く出たがっているのがわかったから、俺は手を引いただけ。アピールなんて、これっぽっちも考えつかなかった」

 肩を竦めながら理由を説明した佐々木を見て、斎藤はさらに難しい表情を作り込んだ。

「佐々木先輩は、まっつーの気持ちを優先して行動しているんですね。それがプラスになるのかマイナスになっちゃうのか、そのときの状況次第になるなぁ」

「なにが言いたいんだ?」

「顔面偏差値最強男は当然、恋愛に関しても抜かりなく行動してくるはずです。佐々木先輩がポンコツなことを知らず、まっつーを手に入れようと躍起になるでしょう」

「さっきから、ポンコツって連呼しすぎ。失礼だとは思わないのか」

「実際佐々木先輩はポンコツなんですから、諦めてください。焦れったいにもほどがありますよ」

「ポンコツで悪かったな!」

「それで、千田課長はなんて?」

 斎藤は佐々木の怒りの矛先を変えるべく、話題をさっさと変えた。そのことを悟った佐々木は、自分の態度の悪さを反省し、げんなりしながら答える。

「松尾の通勤時間は息子さんが同伴するから、絶対に邪魔をするなってさ」

「なにそれ、最低!」

「いつまでその状態が続くのかを聞いたら、相手が飽きるまでだって。いつ飽きるんだか……」
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