恋の誘導尋問~恋に不器用な先輩に捕われたい~
「じゃあ、思いきって甘えちゃいますね。佐々木先輩ありがとうございまーす」

「あとさ、俺は松尾の彼氏なんだから、いい加減に名前で呼んでほしいなぁ」

 メガネのフレームをあげながら、このタイミングでちゃっかりおねだりをする彼氏に、ぶわっと頬が赤くなったのがわかった。

「それなら佐々木先輩だって、私の名前を言ってみてくださいよ」

「うわっ、そうやって切り返してくるなんて、松尾ってば意地悪な彼女!」

 佐々木先輩の頬も私と同じように赤くなり、笑顔が思いっきり引きつったものになった。

「ほらほら早く、言ってみてくださいってば!」

 おねだりした私の視線を避けるように、真っ赤な顔を横に向けて、わざとらしく手を叩きながら呟く。

「あ、ヤバい~。揚げ物から目を離しちゃいけないんだった!」

 なんて言ってうまく誤魔化し、私の前から逃げる大きな背中に向かって、思いきって告げてあげる。

「しゅん……しゅんやさ、んっ!」

 たどたどしさがセリフになって表れてしまったけれど、私の声に反応した佐々木先輩が耳の先まで赤くして、メガネをズリ下げながら振り返る。

「な、なんだ、松っ…え、ぇ笑美ぃ?」

 私以上にたどたどしく答える佐々木先輩に、現実を教えてあげなければならないだろう。

「揚げ物が焦げてるかもです」

 その言葉に佐々木先輩は慌ててコンロに近づき、フライパンの中を覗き込んだ。

「ゲッ! あー、いい感じにきつね色になってる……」

 菜箸でひょいと摘みあげて、中身を見せてくれた。本人はきつね色と称したそれは、実際はかなり濃いめの茶色になってるから揚げで――。

「カリカリに揚がって、美味しそうですね……」

 黒糖のかりんとう色になってるから揚げを、自分なりに持ちあげた。

「この揚げ具合が、笑美に対する気持ちとリンクしているということで、きつね色のは俺が食べる」

 さらっと自然に私の名前を告げた俊哉さんに負けないように、私も真似をしてみる。

「俊哉さん、きつね色のそれ、たくさんあるなら私も食べたいな」

「ンンンっ! だだだ駄目だ、これは俺専用。笑美は美味しそうなほうを食べてくれ」

 さらに顔を赤らめた俊哉さんの戸惑いっぷりを目の当たりにして、お腹を抱えながら笑ってしまったのだった。
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