恋の誘導尋問~恋に不器用な先輩に捕われたい~
 俊哉さんはコーヒーを床に置き、私の頭を優しく撫でてくれる。表情ひとつ、ちょっとした声の調子だけで、私の心情を察してくれる優しさは本当に嬉しい。とても嬉しいのに、悲しくなってしまうのは――。

「私はそこまで、優しくされていい彼女じゃないですよ」

「どういうことだ?」

 頭を撫でる手の動きがぴたりと止まる。注がれるまなざしがなんだかつらくて、俊哉さんから視線を逸らしてしまった。

「だって…だって私は好きでもない人の手で感じてしまうような、嫌な女だからです」

「それは俺も、……だから」

「えっ?」

 俊哉さんの弱々しい声は、なにを言ったのか聞きとれないものだった。どんなことでも逃したくなかった私は、きちんと顔をあげて隣を凝視する。俊哉さんの横顔は、どこか弱り切った感じに見えた。

「……あのとき。綾瀬川の実家で、妹さんが開けてくれた扉から入ろうとしたときに、進みかけた足が思わず止まった。すぐに助けなきゃいけないって、すごく焦っているのにもかかわらず、ベッドの上での光景が目から情報となって、頭に焼きつけようとしたせいで」

「頭に焼きつける?」

 オウム返しをした私の頭を、俊哉さんが自分の肩に押しつけて、まじまじと見れないように施されてしまう。

「ほかの男に抱かれて嫌がってる笑美の表情や、はじめて目にする裸を見て興奮した。興奮したけどそれ以上に、俺ならそんな顔は絶対させないとか、もっと感じさせることができるのにって0.5秒だけ焦れて、次の瞬間には頭がプッツンした状態で殴り込んだ感じでさ」

 私は持っていたマグカップを慌てて床に置き、俊哉さんの腕に両手で絡みついた。

「俊哉さんが助けに来てくれて、すごく嬉しかったんです。ずっと逢いたいって思っていたから」

「笑美?」

 両目を強く閉じて、俊哉さんの腕をぎゅっと抱きしめる。お礼の言葉以外に、なにをしてあげたら彼は喜ぶだろうか。

「俊哉さん、ありがとう。私……も、だめかとおも…ってたから」
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