恋の誘導尋問~恋に不器用な先輩に捕われたい~
 今までずっと我慢していた涙が、一気に溢れ出す。暗くなりがちな私を慮って俊哉さんが笑顔で接してくれているのに、その優しさすら嬉しくて、泣かずにはいられなかった。

「笑美を泣かせてみたいって言ったけど、こんな形で泣かせたくなかったな」

 俊哉さんは縋りつく私の手を腕から外して、胸の中にしっかり抱きしめる。体全部に感じるほっとするあたたかみを逃したくなくて、ぎゅっと縋りついた。

「笑美は名前のとおり、いつも笑顔を絶やさないでいるだろ? そんな君が笑顔以外の感情をぶつけられるような、安心して頼れる男になりたいって思ったんだ」

 ベルベットのような柔らかい声が、私の鼓膜に貼りつく。とめどなく涙が溢れるせいで、言いたいことが全然言えない。それでも伝えたい想いが、私の唇を必死に動かした。

「わっ私、嫌われたと思って。だ、だって俊哉さん、俺以外知らなくていいって言ってたのに、澄司さんに触れられて…感じたくないのに、嫌なのに感じてしまって。ううっ…自分で自分が嫌い、ぃ。俊哉さんの彼女に…ふさわしくっ、ない」

 涙ながらに訴えた私の背中を、俊哉さんはゆっくり上下に撫で擦り、どこまでも優しく接してくれる。

「だったら俺は、自分が嫌いだっていう笑美ごと好きになる。自己嫌悪に苛まれてもいい。それでも俺はずっと好きでいるから」

「俊哉さ……」

「笑美が無事で、本当によかった」

 優しさで満ち溢れる俊哉さんの腕の中で、さめざめと泣き続けているうちに、疲れ果てて眠ってしまった私。気がついたらベッドの上に横になっていて、傍にいた俊哉さんはいなかった。カーテンの隙間から朝日が差し込んでいることで、一夜が明けたことを知る。

(あれだけ泣いたのに、まぶたが腫れていないのは、俊哉さんが冷やしてくれたのかもしれないな)

 いつもどおりの視野の広さに、違和感なく部屋の様子を窺うことができた。だからこそ会社に行こうと決める。仕事に忙殺されたほうが、余計なことを考えずに済むし、なによりーー。

「俊哉さんに逢いたい……」

 大好きな貴方の視界の中に、いつでも入っていたいと思った。
< 79 / 110 >

この作品をシェア

pagetop