恋の誘導尋問~恋に不器用な先輩に捕われたい~
「斎藤ちゃん、ありがとね。わざわざ半休とって私を探してくれて」

「そりゃそうでしょ。昨日の朝、佐々木先輩が「松尾と連絡がとれなくなった」って、血相変えて私に言った時点でヤバみを感じたし。でもさ、無事に一件落着したのに佐々木先輩ってば、今朝はまだ来てないみたいだけど?」

 斎藤ちゃんの言葉で、私はスマホを取り出し、LINEをチェックしてみる。やはり既読はついていなかった。

「昨日の夜、私の自宅で佐々木先輩に夕飯を作ってもらってから、いろいろ話をしていて、感極まって泣きじゃくってしまって。そんな私を佐々木先輩が慰めてくれたんだけど、泣き疲れてそのまま寝ちゃったんだ」

「佐々木先輩やるじゃん。ポンコツ発揮しなかったんだね」

 抱きしめていた私を放して、涙を拭った斎藤ちゃんは、安心した顔で返事をしてくれた。

「それで今朝、佐々木先輩にお礼を兼ねてLINEを送ったんだけど、既読にならないの。電話しても留守電になって繋がらなくて」

 言いながらスマホを見せると、胸の前に腕を組んだ斎藤ちゃんが、大きなため息をついた。

「手っ取り早く、昨日と同じ作戦で行くか……」

「昨日と同じ作戦?」

「千田課長に聞いてみるということ。一応上司なんだし、なにか知ってる可能性が高いでしょ」

 斎藤ちゃんはにっこり微笑んで私の髪型を手早く直してから、颯爽と備品庫から出る。追いかけるのにスライドする歩幅が違うため、小走りになってしまった。

「千田課長、おはようございます」

 フロアから一直線に千田課長のデスクに赴いた私たちは、きちんと挨拶をしてから一礼する。すると、見るからに憂鬱そうな表情で凝視された。

「おはよう。佐々木なら今日は私用で休みだ、以上」

 こっちが訊ねる前に、千田課長は誰に用があるのか瞬時に悟って、すぐに答えてくれたのはいいけれど――。

「私用って、いったい……」

「本人からは、私用で休みますと報告を受けている。詳しくは知らない」

 斎藤ちゃんのいいかけた言葉をぶった切るようなセリフを吐き捨てた千田課長は、もう聞くなと言わんばかりに視線を逸らし、パソコンの画面とにらめっこする。

 私たちは佐々木先輩の情報がないまま、今日の仕事をこなすしかなかった。
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