恋の誘導尋問~恋に不器用な先輩に捕われたい~
***

 会社に着いていつものようにフロアに顔を出したら、斎藤ちゃんがいち早く気づいて、私のもとに駆けつけてくれた。パンプスの音を鳴らしてしまうくらいに急いで近づき、化粧が崩れてしまうと思うような表情をそのままに、私に向かって飛びつく。

「まっつー、無事でよかった!」

 朝の挨拶なしに私にぎゅっと抱きつき、ぐちゃぐちゃになるくらいに頭を撫でまくる。斎藤ちゃんの身長がかなり高いため、そうなってしまうのは当然なれど――。

「斎藤ちゃん、苦しいよ……」

「だってこうやって無事なのを直接確かめことができるとは、思ってもいなかったんだよ~」

 私の頭頂部に頬を擦りつけて涙ぐむ斎藤ちゃんに、小さな声で注意してみる。

「まずは、周りの目を気にしたほうが……」

 髪型が乱れて最悪な私を斎藤ちゃんが見下ろして、しっかり視線を合わせた。そしてふたりそろって背後に視線を飛ばすと、従業員のみなさんが呆然としながら見つめている状況に、斎藤ちゃんは抱きしめていた私を放り出す。

「まっつー、ごめんね。とりあえずちょっと出ようか」

 滲んだ涙を拭いながら私の腕を掴み、颯爽とフロアの外に導く斎藤ちゃんの行動力を見習いたいと思ってしまうのは、ちらりと確認したデスクに俊哉さんがいなかったから。

(昨日のお礼をLINEで伝えたのに既読にならない上に、電話しても繋がらない。しかも出勤していないなんて、いったいどうしたんだろう?)

「給湯室は誰かが絶対来るし、そこの会議室は朝一の会議で押さえられているから、こっちがいいかな。朝から人は来ないでしょ」

 そう言い切った斎藤ちゃんが向かった先は、廊下の突き当りにある備品庫だった。

「まっつー、危ない目に遭ったんでしょ? 怖かったよね」

 備品庫の中に入るなり、ふたたび私に抱きつき、しみじみと語りながら頭を撫でてくれる斎藤ちゃんの優しさに、もらい泣きしそうになる。
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