恋の誘導尋問~恋に不器用な先輩に捕われたい~
「加藤先輩、あのですね――」
気を利かせて私から俊哉さんの栄転と、それまでにここでの仕事の調整などをしなければならないことを教えた。
「ヤバいだろ。佐々木先輩がいなくなったら、その代役を誰がやってくれるんだ。俺ひとりじゃ無理……」
顔を強張らせて呟いた加藤先輩を同情しながら見つめていたら、斎藤ちゃんがいきなり私の前に出て、加藤先輩の額を叩いた。
「いった!」
「なに弱音吐いてんのよ。本来なら、ひとりでしなければいけない業務でしょ。いい加減に腹くくって、やってやろうって気にならないわけ?」
私の前に佇む斎藤ちゃんの表情はさっぱりわからないものなれど、激しい口調が怒っていることを示していた。明らかに叱られたはずなのに、弱気になっていた加藤先輩の顔が、一気に赤くなっていく。
(斎藤ちゃんに叱られて、恥ずかしさのあまりに赤くなったのかなぁ。涙目になってるし、自信なさげにおどおどしてるところを見ると、なんとなく違う気がする)
「俺が頑張ったら、その……」
「頑張るのは当然のことでしょ。加藤だけじゃなく、みんなが大変なんだからね!」
吐き捨てるように言い放ち、目の前を去って行く斎藤ちゃんの横顔は、やっぱりらしくないように思えた。
「俊哉さん……」
振り返りながら、フロアの様子を眺める。
仕事の調整に混乱している同僚たちの姿は、私の心の中を具現化しているように見えた。
名古屋に俊哉さんが転勤したら、遠距離恋愛することになる。格好いい俊哉さんを見て、転勤先の女子社員がときめかないわけがない。メガネのフレームを光らせながらパソコンに向き合い、仕事に集中する俊哉さんは、本当に素敵だから。
「離れて不安にならない彼女なんていないよ」
私の呟きは、フロアの喧騒にかき消されてなくなってしまった。言葉にできない不安も、同じように消すことができたらいいのにね。
気を利かせて私から俊哉さんの栄転と、それまでにここでの仕事の調整などをしなければならないことを教えた。
「ヤバいだろ。佐々木先輩がいなくなったら、その代役を誰がやってくれるんだ。俺ひとりじゃ無理……」
顔を強張らせて呟いた加藤先輩を同情しながら見つめていたら、斎藤ちゃんがいきなり私の前に出て、加藤先輩の額を叩いた。
「いった!」
「なに弱音吐いてんのよ。本来なら、ひとりでしなければいけない業務でしょ。いい加減に腹くくって、やってやろうって気にならないわけ?」
私の前に佇む斎藤ちゃんの表情はさっぱりわからないものなれど、激しい口調が怒っていることを示していた。明らかに叱られたはずなのに、弱気になっていた加藤先輩の顔が、一気に赤くなっていく。
(斎藤ちゃんに叱られて、恥ずかしさのあまりに赤くなったのかなぁ。涙目になってるし、自信なさげにおどおどしてるところを見ると、なんとなく違う気がする)
「俺が頑張ったら、その……」
「頑張るのは当然のことでしょ。加藤だけじゃなく、みんなが大変なんだからね!」
吐き捨てるように言い放ち、目の前を去って行く斎藤ちゃんの横顔は、やっぱりらしくないように思えた。
「俊哉さん……」
振り返りながら、フロアの様子を眺める。
仕事の調整に混乱している同僚たちの姿は、私の心の中を具現化しているように見えた。
名古屋に俊哉さんが転勤したら、遠距離恋愛することになる。格好いい俊哉さんを見て、転勤先の女子社員がときめかないわけがない。メガネのフレームを光らせながらパソコンに向き合い、仕事に集中する俊哉さんは、本当に素敵だから。
「離れて不安にならない彼女なんていないよ」
私の呟きは、フロアの喧騒にかき消されてなくなってしまった。言葉にできない不安も、同じように消すことができたらいいのにね。