バカ恋ばなし
「ところでよぉ~。丸田は付き合っている男はいるのか?」
沼尻先生はハイボールを飲みながらニヤついた赤い顔でストレートな質問をぶつけてきた。
「えっ?」
「あ、そうかこの間の旅行で『いない』って言っていたな。」
「はぁ……」
「石家も今彼女がいないんだよなぁ~。」
「そ、そうですねぇ~。やだ~先生、いきなり何をおっしゃいますか。」
石家先生はいきなり来た沼尻先生の直球に少し驚きながらも真っ赤な顔をクシャっと笑いながら返事をした。
「じゃあお前ら付き合っちゃえば?だって病棟旅行での二次会で王様ゲームしたときにお前らイイ感じだったじゃねぇーか。」
(えぇ~っ!!??)
沼尻先生はハイボールや焼酎をガバガバ飲んでかなり酔いが回ったのか、その勢いでベラベラ口調の剛速球を私たちに投げてきた。顔は更に真っ赤になり、目はドロンと座っていた。
(ヤダ、いきなり何てこと!)
私は驚いて口の中にある鶏のから揚げをゴクッと飲み込み、沼尻先生を見た。
「えっ!イイ感じって!?何があったんすか!?」
田島先輩は座っていた目をカッと見開き座卓から上半身を前のめりにして沼尻先生に聞いてきた。
「いや~二次会のときに王様ゲームで石家が丸田を後ろから抱っこしてたんだよなぁ~。あんときの二人は何かイイ感じだったんだよなぁ~。丸田なんか顔を赤くしてニッコリしちゃってさぁ~。」
沼尻先生はハイボールの入ったグラスをがんと置いてニヤニヤしながら言った。
(何言っちゃってるんだよこのおやじ!)
私は目を真ん丸にしながら小刻みに首を左右に振った。
「何々!?それ初耳!そんなことがあったの?」
田島先輩は私の方を向き、目を見開いたまま詰め寄ってきた。
「い、いや、あのときは王様の命令で石家先生が私をうしろからハグすることになって。でもほんの数秒だけで軽く、軽くでしたよ!」
私は慌てて田島先輩へそのときのことを説明した。説明したとたんに私は恥ずかしくなり、顔を下に俯かせた。顔や首回りが火照ってきているのを感じた。あのときの思い出は最高のものだったけど、いざそんな風に話されると恥ずかしくて仕方がなかった。
「先生~そんな風に言われると恥ずかしいですよぉ~。」
石家先生がクシャクシャ笑顔をさせながら半ばベロベロな口調で言ってきた。
「石家もまんざらではなかっただろぉ~?」
沼尻先生は石家先生の目を覗き込んだ。
「そりゃそうですよぉ~。楽しかったし。」
「えっ!?」
石家先生から発した言葉を聞いた直後、私は思わず石家先生の方を見て声を出してしまった。
(先生はあのときのことをまんざらではなかったのね!そうなのね!!)
私は、胸の奥からパァっと明るくなる感じがしてきた。そしてだんだん口角が上がりニヤけた表情になるのを感じた。でもそれを周囲に悟られてはいけない。特に田島先輩は危険だ!でも遅かった。
「丸田さん、嬉しそうな顔してるじゃん!よかったね~石家先生とイイ感じで。」
「そんな……」
私は更に恥ずかしくなって、カァーっと顔が火照ってきたのを感じた。そして恥ずかしさが増してきて石家先生の顔が見れなくなった。
店内にある時計を見るともう22:00を過ぎていた。
「よし、これからカラオケに行くぞぉ~!」
私たちは居酒屋から歩いて数分のところにあるカラオケボックスに向かった。私の前には沼尻先生と田島先輩がキャキャとじゃれ合い笑いながら歩いていた。田島先輩はビールばっかり飲んでいていたので酔って足取りは若干ふらついていたように見えた。居酒屋の店内が少し暑かったせいか、外に出てからの夜風が心地良かった。夜風の心地良い冷たさが恥ずかしくて火照っていた私の心を冷まし、冷静さを取り戻してくれる感じがした。私は歩きながら時々目を閉じて夜風を感じていた。
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