魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「あの、薬草をとってきてもいいですか? 先ほど、落としてしまったので」
 冷静になったレインはそう言った。

「だったら、一緒に行こう。逃げるかもしれないからな」

 まさかの監視状態。逃げませんってばと、心の中で呟いてから、レインはふぅっと肩で息をついた。先ほど、走ってきた道を戻り始めた。落としてしまった籠の周りには、薬草が散らばっていた。
 それを一つ一つ拾って、籠の中に戻す作業をしていると、トラヴィスも同じように手伝ってくれる。
 多分、トラヴィス本人は気付いていない。そういったさりげない行為が、レインにとって嬉しい、ということを。

「ほら、寄越せ」

 ひょいと、籠をトラヴィスに奪われた。

「こんなにたくさん、何に使うつもりだ?」

 いつものトラヴィスに戻ってきたようだ。

「回復薬を。それから、今は、解毒剤のほうも作れるようになったので、練習しています」

「回復薬か。君からもらった回復薬、あれは良かった」

「あれは、トラヴィス様のためにお作りしたものですから」

 自分のため、と言われてトラヴィスも悪い気はしない。そうか、とだけ言って、彼女の隣を歩く。

「トラヴィス様。こちらが、私がお世話になっている祖母の家です」
 だけど今、祖母は不在。帰ってきてから紹介すればいいか、と思ってトラヴィスを中に入れる。

「薬草の籠は、そちらにお願いできますか?」
 トラヴィスは黙って、そちらに籠を置く。

「あの、今。お茶の準備をいたします。その前に、ちょっと着替えてきますので、お待ちください」

 と、レインが自室へ入ろうとすると、素早くトラヴィスもその身体をすべりこませてきた。

 深く口づけをされる。
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