魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 何を、と聞き返したら、間違いなく彼女は怒るだろう。伝えなければならないことはたくさんある。
 だが、なかなか言葉が出てこない。あれほど会いたかった彼女なのに、本人を目の前にすると、言葉が詰まる。

「では、私の方から質問させていただきますね」
 レインはテーブルの上に置いた両手をきゅっと握りしめる。

「トラヴィス様は、こちらのことをどなたから聞きましたか? 兄、ではないですよね」

 目の前にいる少女は、魔力を失ったことに対して怯えているような少女ではなかった。

「ニコラさん」
 小さな声でトラヴィスは、彼女の母の名を伝えた。

「お母様、ですか。お戻りになられたのですね」
 そこで、ふう、とレインは息を吐く。
「トラヴィス様。お母様から、変な回復薬とか、もらっていないですよね」
 ジロリと視線をトラヴィスに向ける。

「変な回復薬? 普通の回復薬だと思うのだが」

「もらったのですか?」

「ああ。そして、飲んだ」

「飲んだんですか」
 ガタンと音を立ててレインが立ちあがったため、トラヴィスはちょっと驚いた。
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