魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「トラヴィスくん」
 談話室を出て、五歩程歩いたところでニコラに呼び止められた。

「レインは? 元気だった?」

「はい。今、ライトからレインとの結婚の許可をいただきました」
 結婚申請書を見せる。

「そう。今は、ライトが当主だからね。私が口を出す話ではないわね」
 と言いながらも顔を緩めているのは、娘の結婚を喜んでいる証拠、と思ってもいいのだろうか。

「で、トラヴィスくん。私の回復薬はどうだった?」
 この笑みは確信犯だ。

「レインに、ばれました」

「え、レインに? やるわね、あの子。それで、なんか言ってた?」

「その、ニコラさんの回復薬には催淫剤が含まれている、と」

「だって。トラヴィスくん、真面目なんだもの」

「いや、ですが。その、団長との約束ですので。それを破ってしまうと、その、レインとの婚約が無効になるわけで……」
 また、必死で言い訳をするトラヴィス。
「私たちの婚約には団長の契約魔法がかけられているので、それを破ると無効になってしまうわけで」

「えー。あの人、そんなことまでしていたの? よっぽど、あなたにレインを取られるのが悔しかったのね」
 ニコラは声をあげて笑っていた。

「トラヴィスくん。レインのこと、頼むわね。それから」
 そっとニコラはトラヴィスの耳元で囁く。
「レインの魔力が回復したら、教えてね」

 つまりは、そういうこと。
< 133 / 184 >

この作品をシェア

pagetop