魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 そのしんみりとした空気をぶち破るかのように。
「おばあさま、お兄様。見てください」
 元気よく戻ってきたのはレイン。
 スカートの裾を持ち上げて、そこにたくさんの何かを入れている。
「こんなにきのこがたくさんありました」

「あらあら」
 と言いながら、嬉しそうに祖母は席を立つ。
「その恰好で歩いてきたのかい? どれ、きのこはこの籠にいれておくれ。食べられるもの、薬草にするもの、毒になるもの、とわけなければならないからね」

「きのこにはそんなに種類があるのですね」

「そうだよ。ゆっくり覚えておくれ」

「はい」

「疲れただろう。手を洗っておいで。ライトくんと一緒にお茶でも飲みなさい」

「はい」
 レインはバタバタと洗面台のほうに走っていく。その後ろ姿を眺めていたら。

「どうかしたのかい」
 祖母に声をかけられた。

「あ、いや。あんなに楽しそうな妹の姿を、久しぶりに見たような気がしたので。やはり、向こうは合わなかったのかと、そう思ってしまいました」

「そう言ったのかい?」
 急に祖母の視線が鋭くなった。

「え?」

「そう言ったのかい? あの子が」

「いえ」
 ライトは答えた。

「だったら、あの子の言葉を聞いてからそういうことを言うんだね」
 そう言った祖母の顔には温かい笑みが浮かんでいた。
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