魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 あの親子の家を後にする。レインは何度も頭を下げてしまった。あの母親に、そしてあの姉妹に。

「レインちゃん、ちょっと急ごうかね。まだまだ薬を届けなければいけない家があるんだよ」

「もしかして、私のせいで遅くなってしまったのでしょうか」

「そんなこと無いよ。あの家はね、お母さんがちょっと疲れているから、ああやって話を聞いて、子供たちの様子を見ることも必要なんだよ。今日はレインちゃんが一緒に遊んでくれたから、お母さんも喜んでいたよ」

「また、あの子たちと一緒に遊びたいです」

「そうだね」

 このレインという孫は、年齢よりも大人びて見えるけれど、心は幼いということに気付いた。多分、人と接した経験が圧倒的に少ないのだ。どのような生活がそうさせたのか、祖母は知らない。だがここにいる間だけは、その心の成長を見守るのも悪くはないのかもしれない。

「レインちゃんはお友達とどのようなことをして遊んでいたんだい?」

「友達?」
 はて、友達とは何だろうか。
「友達って、お兄様のことではありませんよね」

「そうだね。ライトくんはレインちゃんの家族だからね。学校に行っていたんだろう? 学校で一緒にお話したり遊んだりする親しい子はいなかったのかい?」

 答えはもちろん「いません」なのだが。
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