魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 魔力回復薬を飲んでも魔力が回復しない、ということはいまのレインと同じ状態であるだから、その後、彼がどうなったのか、ということがレインの今後を示唆するような気もするのだが。

 そこでトラヴィスが口を開く。
「それで、ベイジル様は」
 どうなったのか、ということを尋ねたいのだろう。

「レインが生まれる二月前に亡くなったわ」

「なぜ?」
 すかさずトラヴィスは尋ねた。

「魔導士のその魔力が無くなるということは、生きるために必要な体力を奪われるようなものらしいの。なんだったかしら、そう。生命力の枯渇? だったかしら。だからね、次第に衰弱して、そして最期は眠るように亡くなったわ」

――ああ、私の子に会いたかったなぁ。

 ベイジルは優しくニコラのお腹に触れると、ふっと笑った。そしてそれが、ベイジルの最期の言葉となった。
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