魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
「私とあの人が出会ったのは、っていうのは今、関係無いからいいわね。まあ、とりあえずあの人と出会って、ね。なんとなくそんな関係になって。彼は人込みが嫌いだから、私の田舎の方で一緒に暮らし始めたの」

「あ。もしかしてそれは、ベイジル様が一時期この王都からいなくなった、という時期ですか?」
 ライトの問いに、ニコラはそうね、と答える。
「もう、その時期には私がレインのことを妊娠していたし、あの人の研究はどこでもできるからって、田舎に引っ込んだってわけ」

 つまりベイジルが王都から姿を消したのは、妻が妊娠したから一緒についていったということか。一部で噂されていた魔物に捉えられたとか、失踪したとか、持病が悪化したために田舎で療養していたとか、そういった話は本当に噂だった、ということか。

「本当にね、突然だったの。あの人が、魔力が枯渇したとか言い出すから、魔力回復薬を渡したわ。ほら、私、薬師の家系だから」
 眼を細め、唇の端を持ち上げる。悲しい過去、絶望的な過去、苦しい思い。それを思い出しているからか、ニコラには自嘲気味な笑み。
「でもね。まったく回復しなかったのよね。その魔力が。といっても、私が彼の魔力についてわかるわけではないけれど、彼自身がそんなことを言っていたから、多分、そうなんだと思う」
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