魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
 何を考えて――。
 ライトは考えた。大魔導士ベイジルが、料理の作り方や薬の作り方をわざわざ記したのは何故か。

「他人に知られないようにするため、か?」
 トラヴィスは呟く。
「何のために、って。誰にでもわかるような内容ではなく、それを解読することができるような魔導士にだけ伝えるために」

「秘密の内容ってことか?」
 ライトが尋ねる。

「もしかしたら、もしかしなくても。そもそもベイジル様は大魔導士だ。あの人の論文や資料が公になっていたら、今頃、魔導界も大騒ぎだよな」
 トラヴィスが答える。
「まあ、それ以前に資料がこんなところに隠れていたから問題なかったけれど。仮にこの資料が見つかってしまったとしても、この中身が公になることを避けたんじゃないのか? だから、魔導と関係の無いような内容で書き記したんじゃないのか?」

「つまり、それを解読したら、彼がずっと研究していた内容が導き出されるってこともあるってことか?」
 ライトが尋ねた。

「そうかもな。本当に伝えたい奴にだけ伝わるようにした、とかな」
 言うと、トラヴィスは顎に手を当てて考えた。料理の作り方。薬の作り方。
 料理、つまり食べ物、それは生きるために必要な物。
 薬、つまり回復薬、それは魔導士のために必要な物。
 生命力の枯渇、魔力の枯渇。これらが、料理と薬に紐づくような気がしないでもない。
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