最愛ジェネローソ



照れている、という事実から逃れられず、何も言えない。

黙り込む自分を笑いながら、よし君は本当に言いたかった本題を切り出した。



「それでさ、良かったらなんだけど、来月のゴールデンウィーク、旅行しない? 1泊で」



思いもよらぬ提案に、心が躍る。



「旅行……! 行きたい。どこに行く?」



自分が間髪いれずに、同意すれば、よし君の目を見開き、やや後方に後ずさった。

後ずさる本人が提案した筈なのに、ひどく驚いている。



「……本当に、良いの?」

「もちろん。行こうよ」

「……日帰りじゃないよ?」

「うん」



何故に、そこまで念入りに確認をしてくるのか、不思議だった。



「1泊、だからね?」

「うん、それくらい分かって――」



――1泊。

よし君が何度も「1泊」を強調する理由に、ようやく辿り着く。

とうの昔に成人を向かえた男女2人が、一夜を共に過ごすとなれば、そういうことか。

付き合いはじめて、約5ヶ月が過ぎた。

それなのに、未だにお互いのアパートに行ったことすらない。

つまりは、1つ屋根の下で2人きりの空間で過ごしたことが、一度も無いのだ。

普段の食事に気をつけたり、ダイエットにも励んでいるものの、自身の体型などの容姿に、まだまだ自信が持てないで居る。

今回と同じような夕食デートにおいても、帰りは必ず自分の住むアパートに、日付が変わる前くらいにはきちんと送り届けてもらっていた。

そういう状況にならないことに、正直のところ安心してきた。

そして、恐らく今回のこの夕食デートも、そうなるだろう。

たとえ、そうなったとしても、自分に自信が無いのだから、自身が困り果てることは目に見えている。

悲しいことに経験も無ければ、容姿に自信も無い。

未だに引き摺っているのも、情けない話ではあるが、中学生の頃に「牛さん」だの「ブス」だのと言われたことが、意外と堪えているのかもしれない。

もう十数年も経つこと、振り切れればいいのに。

そう思っているのに、突ついても取れない程の胸の隅に、忘れたい事だけは嫌に残る。

――いや、待てよ?

ふと思考と途中で、立ち止まる。

付き合ってから、半年近く経っていても、彼の住居に呼ばれていないということは、自分に対して、そういう気が起きないからこそでは?

だって、自分たちは手でさえも、まともに繋いだことが無いのだから。

ある意味では、行為が無くったって、長年寄り添った落ち着いた老夫婦の様だ。

それはそれで、とても素敵なことなのでは?

だって、自分にとっては、今のままでも十分幸せなのだから。

それならば、旅行に行ったとて、何も起こりっこない筈。

大丈夫だ、という自分の中での結論に落ち着く。

自信に満ちた表情で、よし君に宣言した。



「大丈夫……! ば、ばっちこい!」

「ばっちこい?!」



こんな風に2人で笑い合えるだけで、十分幸せなのだから。

そして、結局この日も日付が越える前には、送り届けてもらい、無事アパートに辿り着いた。


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