最愛ジェネローソ



後ろから抱き締められる感触は、とても心地好い。

安心する。

だけど、心臓がうるさく高鳴っている。

決して、嫌な訳ではなくて、ただ自分が慣れていないだけ。

自身の手をきゅっと握り、少しでも今にも伝わりそうな鼓動を抑えるよう努めてみる。

しかし、そんなこと出来る訳も無く、ただ空しい努力で終わっていくだけだった。

――逃げ出したい。

少しだけ、よし君との間に隙間を作ろうと捩って見ても、お腹の辺りに腕を回されて、引き戻される。

そして、自然に頭の上に手がやってきて、また然り気無く撫でられた。

心地好いけれど、胸騒ぎがするような感覚。

これは、動物の勘なのだと思う。

そんな思考に気が向いていて、動きを止めている自分の首筋に、よし君は顔を埋めた。

スンスンと匂いを嗅がれている。

温泉に入ったとは言え、自分の体臭にも自信は無い。

そもそも、くすぐったい。



「ちょっ……」



声を出して、軽く拒否を示そうとした時、よし君の生唾を飲む音がはっきりと聞こえた。

それに自分の身体が、思いがけずピンッと強張った。

何かから逃げ隠れる様に、息を潜めていても、よし君の手が這ってくる。

お腹の辺りにあった手は、ゆっくりと胸の下にまで迫っていて。

自身の胸と、よし君の手が僅かに触れている箇所が甘く、くすぐったい。



「ねぇっ、よし君、待って」



焦る自分には構いもせず、愛撫が止まらない。

体に触れられる度、くすぐったいなんてものではなくて、小さく体が跳ねるくらいに反応してしまう。

それを覚られるのが、恥ずかしくて堪らない。



「華さんの浴衣、色気、凄い……」

「……っ、や、待ってってば」



耳元で囁かれながら、浴衣の合わせの間から、手をスッと入り込ませ、素肌に優しくなぞる。

続いて、彼の手が足の太股に触れた瞬間、忘れようとしていた記憶が呼び起こされた。

「奴」の記憶、が。

よし君の表情は、今、背中越しで全く読み取れないのに「奴」の卑しい笑みが過る。

今、自分に触れている、この手は純粋な欲を素直に表しているのに。

「やらしく」はあっても、優しいのに。

全く違うと、分かっているのに。

頭では分かってはいても、悔しいが体がまだ理解し切れていないらしい。

よし君の手に、そっと自分の手を乗せ、震える声で訴えかけた。



「待って……。なんで、喋って、くれやんの。なんか、よし君、怖い……」



自分の震えた声に気付いてくれたよし君は、手を止めて、素早く上半身を起き上がらせる。



「あ。え、ごめん。泣いてんの?! う、嘘! こ、怖がらせて、ごめん。ごめんね」



酷く慌ててくれる彼の姿に、罪悪感が湧いた。

嫌だ、と訴えれば、止めてくれたことに安堵する。

このままの関係で満足している、なんて云う自分の気持ちは、やや違った。

この現状から変わることを、恐れているだけだ。

この先で、どんな自分になってしまうのか、なんて予測も出来ないから。

泣いては、いない。

未経験に踏み込むことのあまりの恐ろしさに、ただ声が震えただけ。

慌てる彼に、こちらからもただ謝るしかなかった。


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