最愛ジェネローソ
そして、それから華さんには、写真を撮るというプレッシャーを与えないように、然り気無く他愛もない話題に切り替える。
彼女の顔色や表情からは、平常心を取り戻した様子が見てとれた。
むしろ、今は俺の方が身体が強張ってしまって、意識している。
その後、それぞれのペースで、うどんを平らげた。
満足げに手を合わせる華さんを眺めて、声を掛けて、2人で席を立つ。
会計を済ませて、暖簾をくぐる。
外へと出ると真冬の空気の冷たさが頬を刺した。
「ご、御馳走様です。ごめんね。やっぱり自分の分くらいは払うよ」
振り返ると、申し訳なさそうにする華さんは少し焦っているようで、マフラーを首に巻くことに、手間取っていた。
「だから、良いって。それより、ちゃんとマフラーしないと……冷えるよ」
彼女のマフラーを巻く手に、自分の手を差し伸べて、ほんの少しだけ手伝う。
華さんに風邪を引かせてしまったら、という心配も、もちろんある。
しかし、正直なところでは、彼女と物理的に近付きたいという方が本音だ。
学生時代の彼女は、何人たりとも近付けない雰囲気を醸していたのに。
ここまでの近距離を受け入れてくれること自体、未だに信じられずに、慣れない。
そんな下心だらけの俺に、華さんは血色の良すぎる顔色で見上げられると、心臓に非常に悪い。
もしくは、身体に響く。
「……ありがとう」
あまりにも純粋な瞳に、罪悪感が俺のことを突っついては、からかう。
そいつを振り払う様に、言葉を発した。
「いいえ。じゃあ、華さん、行こうか」
「え……」
歩き始めようとした俺の後ろで、華さんは戸惑っている。
「どうか、した?」
「え、ううん。あの、写真、と、撮らないの?」
俺も忘れていた訳ではない。
あまりにも写真、写真と言い過ぎても、無理強いになってしまうと思い、敢えて口にしなかった。
それを彼女の方から急かしてくれて、非常に助かった。
勝手に俺だけが頼み込んで、華さんが納得していないのに、無理やりに何かをするなんて。
気が引けてしまって、絶対に嫌だったから。
「いいの?」
こちらから確認の問いを投げ掛ければ、彼女は迷わず頷いてくれた。
安堵と嬉しさから、つい口元が綻ぶ。
「ありがとう」
「い、いいえ」
華さんの気が変わらない内に、早速、撮ってしまおうと背景に相応しい所を見渡し、探す。
しかし、周りは歩道と車道、お店が建ち並ぶ通り。
イルミネーション等が、ある訳でもない。
相応しいも、何も無い。