「無加護」で孤児な私がなぜか精霊王に甘く溺愛されてます!?
王国の南端に位置するこの村は、来る花精霊祭の準備に活気づいていた。

精霊王が花乙女と呼ばれる清らかな乙女を選び婚姻の契約を交わした事からここ、ヴァスリオ王国の繁栄と王族の歴史は始まった。
それを祝い年に一度、あらゆる場所で精霊王と花乙女の婚姻を祝う催しをするのだ。

花乙女は花精霊祭の主役だ。
年頃の娘であれば誰もが乙女役に選ばれる事を夢見る。

「今年の花乙女は誰かしら」

「そんな事いってあんた、実は選ばれる気でいるんじゃないの?」

そこかしこでそんな他愛ない話が聞こえ、村全体が浮かれている。


そんな中、村のはずれでは一人のみすぼらしい少女が小さな荷車に荷物を詰め込み、ロープで固定していた。

「よし、私の荷物の引き取りと処分は終わったし、院内のお掃除は完璧。
あとは私が……出ていくだけね」

使い古して擦り切れ、雑巾みたいになったワンピースに身を包んだボロ雑巾のような少女、リリアは孤児院を見上げる。

生まれてから15年育った孤児院だ。良い思い出は余りないが、それは自分のせいだとリリアは納得している。
ただ、掃除や炊事などあらゆる雑事をこなしてきたので、妙な愛着があるのだ。

「おいお前ら!罪人の生まれ変わり、黒髪の『無加護』がいるぞ!」

「いたいっ」

後頭部に衝撃が走った。
地面には泥のついた木の枝が転がっている。リリアに向かって投げられたのだ。当たった部分に手を当てるとべっとりと土がついた。

何もこんな時にこなくても、とリリアは肩を落とす。

(もしかしたらそれも精霊のお導きかしら)

私が無加護だから、何をするにも邪魔が入るのかもしれない。

「こいつの為に祈ってやろうぜ!どうかどうか、土の精霊エザフォス様の恵みがリリアに注がれますように!」

「……ブライアン」

げらげら笑いと祈りの言葉を器用に両立させているのは仕立て屋の息子のブライアンだ。
土の精霊の加護の証である金の髪をさらさらと肩まで伸ばしている。
上等な衣服と整った顔立ちは村の同年代の女の子の憧れの的でいつもきゃあきゃあ言われていた。
しかしどうにも口が悪く、仕立ての手伝いの息抜きにリリアをいじめることを娯楽としているのでリリアは苦手に思っている。
女の子たちはそんなブライアンの粗野な部分もワイルドだと受け取ってうっとりしているようだ。

今年の精霊王役は16才になったブライアンだとリリアは噂で聞いていた。

(きっと花乙女の争奪戦は大変な事になるわね)

リリアには関係のない事だった。
万が一にも選ばれる事はないし、そもそも花精霊祭への参加を認められていないのだ。

「ねえ無加護のあばずれ悪魔、その荷物はなあに?どこかへ行くの?」

酒場の娘のキャロルだ。
火の精霊の加護の証の赤毛とそばかすが可愛さを引き立てていると、幼い頃から看板娘として有名だ。
今年の花乙女の最有力候補。
元々可愛いが、さらに自分を可愛く見せる術を既に身に着けているのでリリアはちょっと眩しく思っている。

キャロルはわざとらしく笑ってリリアにバケツの汚水をかぶせた。
酒場の掃除の後だったらしい。

「やだ臭~い! でも無加護にはお似合いねぇ」

「……」

他にもサムやロニー、スペンサー……つまりリリアで「憂さ晴らし」をするいつもの人物が揃っていた。
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