「無加護」で孤児な私がなぜか精霊王に甘く溺愛されてます!?
「ええ…ちょっと心機一転」

正直に話すのは気が引けたので言葉を濁す。
とはいえ狭い村の事だ。リリアの事情も予定も全て筒抜けで、つまり邪魔をしにきたのだろう。
陽の出ている内に移動を終えたいし、これ以上留まっても良い事がないのは明らかだった。

「あらほんと!?」

キャロルはもう宴が始まっているかのようにブライアンの手を取ってくるくると回る。
ブライアンは鬱陶しそうに払いのけるが、いつもの事なのでキャロルは意に介していない。

「それにしてもやっと出ていくのね。花精霊祭には早いけど今日はパーティーだわ!皆にお知らせしなくっちゃ」

確かにこの村の厄介者である自分がいなくなるのなら酒場は盛り上がるだろう。

(とはいえ、たまに立ち寄るから村と完全に断絶するわけではないのよね)

これから一人で暮らす予定だが、全て一人でというわけにもいかないだろう。
こんなに喜ばれるとなんだか申し訳ない気持ちになってくる。
もし村に用事が出来たら、なるべく隠れて—それはいつも通りだったが—済ますようにしようとリリアは心に誓った。

「それじゃあもう行くわね」

気持ち的にはこの村の最後の思い出に文字通り泥を塗られた気分だったが、リリアは荷車の取っ手を握りしめて踏み出す。

「罪人の無加護が逃げるのかよ! いい度胸だなァ!」

歩く背中に石や枝、ゴミが飛んでくる。
ただでさえ切り詰めた生活で衣服はボロなのに、さらにほつれたり汚れたりしてしまいそうだ。
青あざや切り傷もしょっちゅうで、もう慣れてしまったリリアは涙も出ない。
せめて当たらないようにと背を縮こませるだけだ。




誰もが精霊の加護を受けるこの世界で、『無加護』は罪人にも等しい。

やめてほしいと頼みはするが、聞き入れられる事はない。
リリアからの反撃なんてもってほかだ。

(私のせいだもの。仕方ないわよ)

もちろん何も悪い事はしていないし、いつか加護が与えられるよう慎ましく生きてきたつもりだ。
だがリリアの黒髪黒目はどうしたって精霊の加護がない事を主張する。
全く記憶はないが、皆の言うように前世でよっぽど悪い事をしたに違いない。
もしくは今から悪い事をするかだ。

虫でも何らかの精霊の加護を授かるのに、リリアは無加護。
ぺちゃりと踏みつぶされても文句を言える立場ではない。

でも、だからこそリリアは他人に優しくしようと決めていた。
心まで悪魔になってしまうのは嫌なのだ。

しばらく歩いているとブライアン達の声も、石も飛んでこなくなった。
新しい痛みが出来ない事にほっと息をつく。
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