バーチャル彼氏
☆☆☆

私は目の前の茶色く大きな大学を見上げ、足を止めた。


緊張はピークに達し、校門の一歩手前で足が固まってしまっているんだ。


敷地内には何人もの大学生たちが思い思いに散歩をしたり、昼寝をしたり。


チャイムが鳴って慌ててかけていく人もいる。


高校とは全然違うその雰囲気に、圧倒される。


「あっれ? 清美の妹じゃん?」


突然後ろからそう声をかけられて、ビクッと飛び跳ねる。


振り向くと、たまに家に遊びに来るよく知った顔があった。


清美お姉ちゃんの彼氏だ。


たしか『いっちー』とかって呼んでたっけ。


その、いっちーの顔に、私は心底ホッとした。


このまま前に進めないんじゃないかって、思ってたから。


「なに? うちの大学に何か用事?」


いっちーは茶色い髪を輝かせてニッコリと笑った。


「ちょっと、人を探してて」


「人? 誰?」


「えっと……苗字しか知らないんですけど……」


そう言い、『瀬戸』という苗字を口にしようとした、瞬間――。


私は、いっちーの後ろにいる人物に目を奪われた。


緩い天然パーマと、口元のエクボ。

心臓が停止するかと思った――。
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