異国の地での濃密一夜。〜スパダリホテル王は身籠り妻への溺愛が止まらない〜
 ふと隣で一緒にこの曲を聞いている彼の表情が気になった。どんな風にこの曲を感じているんだろう。涙で滲んだ視界をハンカチで鮮明に戻し横を向く。なんとも切ない哀愁漂う表情。やっぱりみんなこの主旋律の悲しさに感動しているんだ。
 彼がこの曲を聞いて何を思ってその表情をしているのか気になった。
 気になったけれど聞かない事にする。
 今日で最後なんだからこれ以上彼の事を知る必要はない。知ってはいけない気がした。知ってしまったら戻れない。


 視線をオーケストラに戻した瞬間トランペットのパァンと華やかな高音が身体を貫いた。なんて澄んだ真っ直ぐな音だろう。
 ふと思った。こうして一緒に音楽を曲の感動をもう総介さんとは共有できなくなるんだ。今日が終わってしまえば私は総介さんとの縁を切ろうとしている。仕方がない、仕方がないけれど悲しくてまた涙が溢れ出てきた。
 止めとなく頬をつたる雫は次から次へと流れ落ちていく。感動もそうだけれど、それ以上に彼との関係を終わる事に悲しくて涙が出てしまっているのだと私は気づいてしまった。
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