異国の地での濃密一夜。〜スパダリホテル王は身籠り妻への溺愛が止まらない〜
 前回来た時と同様職員玄関から楽団用の名簿に九条総介と記入し、急いで音楽室へ向かう。曖昧な記憶を頼りに、歩くペースはどんどん早くなる。音楽室がある三階までの階段を年甲斐もなく飛び跳ねるよう一段飛ばしで登った。ハァハァと息が切れるのも御構い無しに俺は音楽室へ向かう。

 休憩中だろうか、音楽室からチラホラ人が出てきた。物珍しそうに俺を見る人が殆どだ。そんな視線を掻い潜り真緒の元へ急ぐ。
 すぐに見つけた。
 愛おしい彼女の後ろ姿は心なしか元気がなさそうに見えた。呼吸を整えながら彼女に近づく。心臓がドキドキと早く動いている。いい歳した男が緊張で身体が震えそうだ。

 椅子から立ち上がった真緒がぐらりと人形のように倒れた。

「真緒っ!!!」


 一瞬目の前が真っ暗になった。彼女の元に駆け寄る。床に横たわる青白い彼女の顔色に血の気が引いた。


「真緒! 真緒!」


 肩を叩いて名前を呼ぶが反応がない。口元に耳を当て、呼吸をしているか確認したが息はしている。気を失っただけのようだが、どうだろう。安心はできない。


「すいませんが、救急車をお願いできますか!?」


「は、はいっ」


 とにかく自分が落ち着いて対処しなければ。深く呼吸を吸い、隣の席にいた女性に救急車を呼んでもらった。
 救急車が来るまで彼女の手を握り何度も何度も名前を呼んだ。大丈夫、大丈夫、と自分にも言い聞かせながら。
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