クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす
「あら、宏輔さん。こんばんは。」
「今日も綺麗だね。柊哉さんと来たの?」
招待客たちがが美しすぎる和優を遠巻きにしている時に、
堂々と彼女に気安く声を掛けてきたのは、縁戚関係になる里見宏輔だ。
宏輔は学生の頃から優秀で、親戚の立場に甘えず
キチンと難関の試験を受けて高遠ホテルに就職していた。
現在は営業部に属しており、幹部候補として将来を期待されているエリートだ。
スラリとした体格で優し気な面立ちをしており、高遠ホテルでは人気者らしい。
彼に会いに来る常連客がいるとか、彼の接遇目当ての女性客がいるとの噂もある。
「お仕事中でしょ。ここでお喋りしてて大丈夫?」
「社長令嬢にご挨拶しているだけですよ。」
「お上手ね。もう令嬢ではないわ。」
「ああ、奥様とお呼びしましょうか?」
「嫌だわ、普通にして下さい。」
「柊哉さんはどこ?」
「…カリフォルニアよ…。」
「また出張かい?忙しい人だなあ。」
「お仕事だから…。」
「和優と結婚してから、殆ど東京にいないでしょ。」
「そうねえ…。」
「社長が何を考えてあの人を和優の夫に選んだんだか…。」
「いいの、宏輔さん。私はいいのよ。」
「和優…。」
「今夜はもう帰るわね。じゃあ、また。」
見送ろうという宏輔の申し出を断って、和優はタクシー乗り場に向かった。