クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす


 夜10時前に横浜から松濤の自宅に帰った和優(なゆ)は、タクシーを降りて溜息をついた。
本間家は周囲を高い塀に囲まれた、芝生のある庭付きの古めかしい洋館だ。
住宅街にあっても、夜ともなればシンと静まりかえり不気味なくらいだ。

半年前に結婚した時から住んでいる家だが、こればかりは慣れそうにない。

昼間は通いの家政婦の田辺安子(たなべやすこ)がいるが、夕方6時には帰ってしまう。
夫の柊哉は結婚して以来、殆どこの新居で寝泊まりしないので、
一人っきりの夜はどれだけ戸締りしても緊張する。

安子が明々と門灯を点けておいてくれたから、まさか無人とは思われないだろうが
家に入って玄関のカギを閉めるまで、気が抜けなかった。

「ただいま…。」

習慣になっているので、か細い声だが帰宅の言葉を口にする。

無駄に広いリビングにバックを置くと、バスルームに進んだ。
この狭い空間が、やけにホッとできるのだ。

慣れた病室の様な、無機質な空間。

服を脱いで、シャワーを浴びる。
温かいお湯が、今日のパーティーの疲れを洗い流してくれるようだ。




< 9 / 125 >

この作品をシェア

pagetop