クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす


ボディーソープは、ほのかにバラの香りがする物を使っている。

バラの香りは難しい。強すぎず、弱すぎず…やっと見つけたお気に入りだ。

泡で丹念に身体を洗ってから、またシャワーで洗い流す。

壁面の大きな鏡には、細身ながら若々しいプロポーションの女性が映っていた。
だが、その胸の中央には、かなり薄いが一筋の傷痕があった。
そして…胸というより右の腋窩(えきか)に近い位置にMICS手術の痕が見える。

最初に病気が見つかった幼児の頃の手術痕と
弁置換手術を受けた高校生の頃の手術痕だ。

二度の手術を生き延びた勲章だと和優は思っているが、
夫となった人は、まだこの姿を知らない。

『きっと私の身体に、興味ないのよね。』



新婚初夜のホテルのスイートルームで、柊哉は和優に言ったのだ。

『君を抱くつもりはない。』

はっきりと、シルクのネグリジェ姿の和優を見ながら言ったのだ。

彼は、顔色一つ変えなかった。

それからツインベットに、それぞれ無言で横になった。

柊哉に背を向けたまま、和優は涙が零れるのを止める事が出来なかった。
歯を喰いしばって、鳴き声だけは抑え込んだ。

『愛せないなら、どうして結婚したの!』


幼い頃からの、『子供を持つ』夢は叶いそうにない事を知った夜だった。





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