クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす


 その日、和優が出かけて間もなく、松濤の家に柊哉が帰宅した。
平日の昼間とあって、家政婦の田辺も驚いた。

「旦那様、何かございましたか?」

「和優は?」

「お車でお出掛けでございます。」

「そうか…。」

「お茶かコーヒーをお入れしましょうか?」
「濃い目のコーヒーを書斎に頼む。」

「かしこまりました。」


何かあったのかと思いながら、田辺は柊哉にブラックコーヒーを用意した。
淹れたてのコーヒーをお盆に乗せて一階の奥にある書斎へ行こうとしたら、
金子理江が二階から降りてくる音がした。

和優なら、普段から廊下や階段を殆ど足音を立てずに歩くが、
理江はバタバタとスリッパの音を立てるからすぐにわかる。

お盆をそっと置いて、田辺は書斎の方を覗いて見た。
カウンターキッチンの横の小窓は、書斎のある側の廊下が見える。

洋館の造りは、従業員が主人の希望に沿って動きやすいよう様々な工夫がされている。
この小さな飾り窓もその一つだ。

カフェカーテンを少しずらすと、理江が書斎の前に立っているのが見えた。
すると、書斎のドアが開いて柊哉が姿を現した。


田辺は思わず声を上げそうになったが、家政婦の矜持で飲み込んだ。


柊哉が財布を出し、現金を理江に渡しているのだ。

万札が…何枚くらいあっただろう。
20万かもっとか…。


『まさか…』


あんなオンナが、旦那様の『愛人』なの?




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