クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす


 春めいてきた3月の土曜日、和優は涼真の運転で甲府にいた。
パン教室で学ぶことはもう殆ど無さそうだ。

篠塚夫妻も、和優がここまで通い詰めて学び続けるとは思っていなかった様だ。
他の職人たちからも、最初の頃は奥様の気まぐれと思われていたが、
近頃では実力そのものを認められ、信頼されるようになって来た。

「和優さん、今後はどうされますか?」

「オーナー、今後って、どういう意味でしょう?」
「和優さんは凄く勉強されましたし、ここから先は目指す所で変わってきますよね。」

「目指す?」

涼真も話に加わってきた。

「うちの親父達も言ってただろ。趣味か実益かってことじゃん?」

「ああ…。そうですね…。」


無口だが真剣にパン作りに取り組んで来た和優を、
篠塚健一はパン教室の生徒ではなく、沢山いる弟子のひとりだと思っている。


「姉妹店でも出しますか?」

「えっ?」

「昔ながらの製法のイーストのパンと色々な天然酵母を使ったパンの
 両方を取り扱う店があってもいいかなって思うんですよ。」


「あ、親父もそれ言ってた、」


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